2024年大河ドラマ『光る君へ』や映画『陰陽師0』で話題になっている平安時代。
和歌や蹴鞠など雅な暮らしが印象的な時代ですが、その裏には「権力闘争を繰り返す貴族」や「貧困や疫病で苦しむ民」の姿がありました。
この記事では、そんな時代の裏側まで教えてくれるおすすめ小説6作品を紹介していきます!
『この世をば』永井路子
基本情報
著者:永井路子
【作品名】この世をば
【作家】永井 路子(ながい みちこ)
【出版社】新潮社(電子書籍版:ゴマブックス株式会社)
【冊数】全2冊
【ステータス】完結済み
【初版発行日】1984年
【ジャンル】歴史小説(平安時代)
あらすじ
時の権力者、関白・藤原兼家の三男坊の藤原道長は、機転が利きカリスマ的な存在感を放つ長兄の道隆や野心家である次兄の道兼に比し、平凡でおっとり、出世も遅々としていたが、姉である詮子の助力を得ながらも、左大臣の娘・倫子と結婚する。以来、徐々にではあるものの、道長にも運が向いてきて、姉・詮子、妻・倫子などの支援を受けながら出世街道を上りつめていく……。表面的な華やかさに誤解されがちな人間・藤原道長の素顔を見事に浮かび上がらせた名作。
引用元:Amazon商品ページ(https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00L38KHR4)
おすすめポイント
本作『この世をば』は、
この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば
という和歌を詠んだことで知られる、藤原道長の生涯を描いた歴史小説です。
著者は、『炎環』で第52回直木三十五賞を受賞した永井路子先生。
和歌の影響から傲慢と思われがちな道長を、「ただ運が良かっただけの平凡児」として描きました。
作中の道長はおっとりした性格なんよね
2024年大河ドラマ「光る君へ」で描かれている道長も本作に近いように感じます。
道長は、父・兼家と正妻との間に生まれた三男坊。
二人の兄や、天皇の子を産み国母となった姉と違って、出世欲もなく、ただ流されるように生きている青年でした。
『この世をば』は、そんな道長と彼の正妻となる源倫子が結婚する時期から始まります。
本作のいいところは、「丁寧に説明をしてくれる」ところです。
例えば、本文のいたるところに相関図が挟まれています。
平安時代中期、上位貴族のほとんどが藤原か源です。
新たな登場人物が増えるたび、
もう勘弁してくれ……
と思いますが、相関図があることで頭を整理しながら読むことができます。
また、図だけでなく文章でも、当時の事柄を現代のものに置き換えて説明してくれています。
例えば、当時の階級を説明する際に、「四位は社員、三位は取締役のようなもの」と説明されており、
四位から三位に昇格することは、大変なことなんだなあ
と想像することができます。
歴史小説ではありますが、会話文のテンポが良く、カタカナも躊躇なく使われているため読みやすい作品だと思います。
社会科の授業でみな習ったであろう藤原道長。
生身の人間としての彼を感じられる名作です。
著者:永井路子
『はなとゆめ』冲方丁
基本情報
著者:冲方丁
【作品名】はなとゆめ
【作家】冲方丁
【出版社】KADOKAWA
【冊数】全1冊
【ステータス】完結済み
【初版発行日】2013年11月
【ジャンル】歴史小説(平安時代)
あらすじ
『天地明察』『光圀伝』の異才が放つ、傑作歴史小説!
なぜ彼女は、『枕草子』を書いたのか――。28歳の清少納言は、帝の妃である17歳の中宮定子様に仕え始めた。華やかな宮中の雰囲気になじめずにいたが、定子様に導かれ、その才能を開花させていく。機転をもって知識を披露し、清少納言はやがて、宮中での存在感を強める。しかし幸福なときは長くは続かず、権力を掌握せんとする藤原道長と定子様の政争に巻き込まれて……。清少納言の心ふるわす生涯を描く、珠玉の歴史小説!
引用元:KADOKAWAサイト(https://www.kadokawa.co.jp/product/321512000041/)
おすすめポイント
本作『はなとゆめ』は、「春はあけぼの」からはじまる随筆『枕草子』を書いた清少納言の生涯を描いた歴史小説です。
清少納言の独白という形式で本文全てが書かれているため、「です・ます」調でやわらかく、雅に感じられます。
「平安時代のギャル」「キラキラ女子」というイメージを持たれている清少納言ですが、本作では、はじめての宮仕えに戸惑いながらも、主君である定子を想い懸命に働く、ステレオタイプではない清少納言が描かれています。
一般的なイメージとのギャップ!
という意味では、先述の『この世をば』と共通していますね。
清少納言が仕えた藤原定子は、決して幸運なひとではありませんでした。
数え15歳で、従弟にあたる4歳下の一条天皇の妃となった定子。
仲睦まじいふたりでしたが、一条天皇が幼かったこともあり、しばらく子どもができませんでした。
定子の父・藤原道隆は「皇子を埋め」と定子にたびたび迫ります。
「娘に天皇の子を産ませ、皇子の祖父となる」
これこそが当時、国の実質トップになる方法だったからです。
父親の出世に利用される……
しかし結局、道隆は皇子を見ることなく亡くなり、その後、定子たち一族は定子の兄たちが起こした事件がきっかけで衰退していくのです。
清少納言は定子の隣で、華やかな宮中の暮らしから没落していくようすを見ていました。
しかし、『枕草子』にはこのあたりのことは書かれていません。
定子を思うがゆえに、悪いことを遺したくはないと思ったのでしょう。
『はなとゆめ』では、そんな清少納言が隠したかったであろう暗い裏の部分まで丁寧に描かれています。
一人の女としての、主君に仕える女房としての、1000年以上遺る作品を書いた作家としての清少納言の生き様をぜひご一読ください!
著者:冲方丁
『陰陽師』夢枕獏
基本情報
著者:夢枕獏
【作品名】『陰陽師』シリーズ
【作家】夢枕獏
【出版社】文藝春秋
【冊数】本編19冊(短編集16冊、長編3冊:2024年5月下旬時点)
【ステータス】連載中(2024年5月下旬時点)
【初版発行日】1988年8月10日
【ジャンル】伝奇小説
No. | タイトル | ジャンル |
---|---|---|
本編1 | 陰陽師 | 短編集 |
本編2 | 陰陽師 飛天ノ巻 | 短編集 |
本編3 | 陰陽師 付喪神ノ巻 | 短編集 |
本編4 | 陰陽師 鳳凰ノ巻 | 短編集 |
本編5 | 陰陽師 生成り姫 | 長編小説 |
本編6 | 陰陽師 龍笛ノ巻 | 短編集 |
本編7 | 陰陽師 太極ノ巻 | 短編集 |
本編8 | 陰陽師 瀧夜叉姫(上) | 長編小説 |
本編9 | 陰陽師 瀧夜叉姫(下) | 長編小説 |
本編10 | 陰陽師 夜光杯ノ巻 | 短編集 |
本編11 | 陰陽師 天鼓ノ巻 | 短編集 |
本編12 | 陰陽師 醍醐ノ巻 | 短編集 |
本編13 | 陰陽師 酔月ノ巻 | 短編集 |
本編14 | 陰陽師 蒼猴ノ巻 | 短編集 |
本編15 | 陰陽師 螢火ノ巻 | 短編集 |
本編16 | 陰陽師 玉兎ノ巻 | 短編集 |
本編17 | 陰陽師 女蛇ノ巻 | 短編集 |
本編18 | 陰陽師 水龍ノ巻 | 短編集 |
本編19 | 陰陽師 烏天狗ノ巻 | 短編集 |
絵物語1 | 鬼譚草紙 | 絵物語 |
絵物語2 | 陰陽師 瘤取り晴明 | 絵物語 |
絵物語3 | 陰陽師 首 | 絵物語 |
絵物語4 | 陰陽師 鉄輪 | 絵物語 |
絵物語5 | 陰陽師 鼻の上人 | 絵物語 |
関連本1 | 七人の安倍晴明 | アンソロジー |
関連本2 | 平安の闇に、ようこそ『陰陽師』読本 | ガイドブック |
関連本3 | 陰陽師 平成講釈 安倍晴明伝 | 講釈本 |
関連本4 | よりぬき陰陽師 | アンソロジー |
関連本5 | 『陰陽師』のすべて | ガイドブック |
関連本6 | 妖異幻怪 陰陽師・安倍晴明トリビュート | トリビュート |
関連本7 | 陰陽師0 | 映画ノベライズ |
あらすじ
時は平安時代、京の都に安倍晴明という名高い陰陽師がいた。まだ闇が闇として残り、夜になれば人も、鬼も、物の怪も、同じ都の暗がりに、息をひそめて住んでいた時代だ。安倍晴明は従四位下、大内裏の陰陽寮に属する陰陽師。死霊や生霊、鬼など、普通の人間には見えない、妖しのものどもを相手に、この世ならぬ不可思議な難事件をあざやかに解決する。親友の源博雅は、霊感はまるでないが、刀では敵なしの強さ。力を合わせて物の怪に挑む。野村萬斎・主演で映画化された原作!
引用元:Amazon商品ページ(https://www.amazon.co.jp/gp/product/B009DECSKE)
おすすめポイント
もっとも有名な陰陽師。
言わずと知れた安倍晴明を現代に広めたのが、本作『陰陽師』です!
何度もメディア化されているため、なにかしらを観た方も多いのではないでしょうか。
かくいう私も、野村萬斎さん主演の映画『陰陽師』『陰陽師Ⅱ』から晴明にハマりました。
萬斎さん=安倍晴明のイメージぴったり!
2024年には若かりし頃の安倍晴明を描いた映画『陰陽師0』も公開されましたね。
こちらも観にいきましたが良かったです〜!
のちに、数多くの作品に登場するようになった安倍晴明ですが、「癖のある美形キャラ」として描かれることも多いのではないでしょうか。
そんなイメージは、夢枕獏先生が作り出した『陰陽師』の安倍晴明からきています。
しかし、きっと実在した安倍晴明は、そんなカッコイイ感じではなく、2024年大河ドラマ「光る君へ」でユースケ・サンタマリアさんが演じられているキャラクターが近かったのだと想います。
狡猾なタヌキ親父
晴明ブームの火付け役となった『陰陽師』は、天才的な陰陽師の安倍晴明と彼の相棒である武士・源博雅が、霊や鬼など、人ならざるものを相手にさまざまな事件を解決していく物語です。
ほとんどが短編で構成されており、こういった部分からも、「平安のシャーロック・ホームズ」と言えるでしょう。
晴明がホームズで、博雅がワトスン
夢枕獏先生の文章は、改行が多く、テンポがいいのが特徴で、晴明と博雅2人の会話が特に魅力的です!
巻数が多い『陰陽師』シリーズですが、するすると読めてしまうので、ぜひコンプリートを目指してみてください!
著者:夢枕獏
『少年陰陽師』結城光流
基本情報
著者:結城光流
【作品名】『少年陰陽師』シリーズ
【作家】結城光流
【出版社】KADOKAWA
【冊数】既刊56冊(本編46冊、短編集7冊、外伝1冊、現代編2冊:2024.5月下旬時点)
【ステータス】連載中(2024年5月下旬時点)
【初版発行日】2002年1月1日
【ジャンル】和風ファンタジー
あらすじ
「ぬかるなよ、晴明の孫」「孫、言うなっ!」時は平安。13歳の昌浩は、稀代の陰陽師・安倍晴明の末の孫。資質は素晴らしいのだが、まだまだ半人前。よき(?)相棒の、物の怪(愛称もっくん)にからかわれながら、修行に励む日々である。そんな中、内裏が炎上するという騒ぎが起き、昌浩はもっくんと共に独自の調査を開始するが……。半人前陰陽師は都を救えるか!? 新説・陰陽師物語登場!!
引用元:Amazon商品ページ(https://www.amazon.co.jp/gp/product/B009GPMQV6)
おすすめポイント
『少年陰陽師』シリーズは、かの有名の陰陽師・安倍晴明の孫の物語です。
主人公は、13歳で元服したばかりの少年・安倍昌浩(まさひろ)。
昌浩は、実在の人物ではありません。
ただ、彼の父親である安倍吉昌は安倍晴明の息子として実在しています。
フィクションとノンフィクションを巧妙に融合したのが『少年陰陽師』です。
2002年から刊行されつづけている『少年陰陽師』シリーズは50冊を超えています。
初見さんにはとっつきにくいかもしれませんが、3〜5冊ごとにシリーズ(編)が分かれているため、気になった方は、とりあえず第1シリーズである「窮奇編」の3冊を読んでみてください!
読んだらきっと続きも読みたくなるけどね〜
第1シリーズ「窮奇編」と第2シリーズ「風音編」だけではありますが、アニメ化もされています。
本作はライトノベルに分類され、小学生の方でも平安時代が楽しめる作品です!
私も最初に読んだのは、小学生の時でした!
昌浩の相棒である物怪のもっくんや、じい様(安倍晴明)の配下の十二神将たち、ヒロインの彰子や、貴船の祭神・高淤の神など、魅力的なキャラクターが多数登場する『少年陰陽師』シリーズ。
結城光流先生からたびたび試練を与えられ、苦しみ、成長していく昌浩たちをぜひご覧ください!
ハマった人はもれなく京都へ聖地巡礼に行きます
著者:結城光流
『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』夢枕獏
基本情報
著者:夢枕獏
【作品名】沙門空海唐の国にて鬼と宴す
【作家】夢枕獏
【出版社】徳間書店、KADOKAWA
【冊数】全4冊
【ステータス】完結済み
【初版発行日】2004年
【ジャンル】伝奇小説
あらすじ
盟友・橘逸勢らと共に、遣唐使として長安に入った若き僧・空海。密教の真髄を「盗みにきた」と豪語する空海は、ありあまる才で多くの人を魅了していく。一方長安では、奇怪な事件が続いていた。役人・劉の屋敷に猫の化け物が取り憑き、皇帝の死を予言したという。噂を聞いた空海と逸勢は、劉家を訪れ妖猫と対峙することに。その時から2人は、唐王朝を揺るがす大事件にかかわることになる──! 中国伝奇小説の傑作ここに開幕。
引用元:Amazon商品ページ(https://www.amazon.co.jp/gp/product/B009GPMFQC)
おすすめポイント
再び、夢枕獏先生の作品です。
本作は、真言宗の開祖である弘法大師・空海が主人公のお話です。
2018年には染谷将太さん主演で映画化しました。
ただ、原稿用紙2600ページにわたる大作を129分に収めることは到底できず、原作小説と映画は別物と考えた方が良さそうです。
染谷さん演じる空海はとても良かった!
空海は、804年に遣唐使の長期留学僧として、古代中国・唐に渡ります。
本作『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』は、空海が唐にいる2年間の間に起こったお話です。
唐に渡ったり、密教を学んだり、というところは史実どおりですが、その間に起こったできごとは、夢枕獏先生が創り出した物語が語られていきます。
『陰陽師』シリーズの晴明と同様に、空海にも相棒がおり、それが、留学生としてともに唐に渡った貴族・橘逸勢(はやなり)です。
密を極めていく空海と、彼の思考の助けとなっている逸勢。
この2人の会話が秀逸で、いつまでも読んでいたい気分でした。
ページ数や本の分厚さに驚いてしまうかもしれませんが、改行が多めのため、思ったよりもすぐ読めてしまいます!
夢枕獏先生が1987年から17年もかけて書かれた作品をあっという間に読んでしまっていいのかと思ったりもしますが……。
おもしろいんだから、しかたがない!
「言葉で宇宙論を展開してみたい」という欲求のもとに書きはじめられた本作は、やがて、数十年前の玄宗皇帝と楊貴妃の時代まで遡り、当時の謎を空海たちが解き明かすことになります。
玄宗皇帝時代の留学生・阿倍仲麻呂が登場したり、
名前だけは聞いたことあるけど……
という人々のことを詳しく知ることもできる小説です。
平安時代初期に生きた空海たちの物語を、ぜひ読んでみてください。
著者:夢枕獏
『童の神』今村翔吾
基本情報
著者:今村翔吾
【作品名】童の神
【作家】今村翔吾
【出版社】角川春樹事務所
【冊数】全1冊
【ステータス】完結済み
【初版発行日】2018年10月2日
【ジャンル】時代小説
あらすじ
「世を、人の心を変えるのだ」「人をあきらめない。それが我々の戦いだ」――平安時代「童」と呼ばれる者たちがいた。彼らは鬼、土蜘蛛……などの恐ろしげな名で呼ばれ、京人(みやこびと)から蔑まれていた。一方、安倍晴明が空前絶後の凶事と断じた日食の最中に、越後で生まれた桜暁丸は、父と故郷を奪った京人に復讐を誓っていた。そして遂に桜暁丸は、童たちと共に朝廷軍に決死の戦いを挑むが――。差別なき世を熱望し、散っていった者たちへの、祈りの詩。
引用元:Amazon商品ページサイト(https://www.amazon.co.jp/gp/product/B089SLBTR3)
第10回角川春樹小説賞(選考委員 北方謙三、今野敏、角川春樹 大激賞)受賞作にして、第160回直木賞候補作。
おすすめポイント
第10回角川春樹小説賞を受賞した本作『童の神』は、鬼や土蜘蛛といった恐ろしげな名で呼ばれた「童」たちが主人公のお話です。
時代は、平安時代中期。
藤原道長たちの時代とかぶっていますが、本作は雅な宮中とは違い、都の外で暮らす人々に焦点を当てているところが、他作品とは異なります。
大江山で夷賊討伐をしたと云われる源頼光と頼光四天王。
彼らが斬ったのは本当に「鬼」だったのか、それとも「人」だったのか……。
貴族たちが暮らす都の外で起きていた物語を、ぜひご一読ください。
本作については、以下の動画でも詳しく解説しています!
熱くて泣ける小説です!
著者:今村翔吾
まとめ
以上、平安時代が舞台のおすすめ小説6作品をご紹介しました。
最後までご覧いただきありがとうございます!
他にも、漫画や小説をご紹介しておりますので、あわせてご覧ください。
また、YouTubeでも書籍の紹介などをおこなっています。
フリーアトリエ晴星(YouTubeチャンネル)
ご視聴いただけると嬉しいです☺️